木曜日のその日、早朝からリーシュと合流したキリヤナギは、彼女へ作戦を全て話し、準備作業へと入ってゆく。 ジンとリーシュと共にスーツ店へと足を運んで衣服を見たて、装飾店で黒のサングラスと帽子を入手したキリヤナギは、通信デ続きを読む
カテゴリー: 本編
第五十二話:イベリス
「……」 グランジの視線がキリヤナギの背中へと突き刺さる。 そこはオウカ町にある数少ない住宅街でもあった。豪華な邸宅がならび、その一つ一つは宮殿から数々の名誉や栄誉を得た騎士や使用人達が住むいわば貴族街とも言える。 そ続きを読む
第五十一話:ボタンの善意
「ゴタついてるねぇ」「呑気すぎですよ隊長。ジンさんが居なかったら大変な事になってたかもしれませんよ!」 昼間のリビングにて、キリヤナギの専属護衛たる特殊親衛隊の隊長。セシル・ストレリチアは、自身の隊のものを引き連れキリ続きを読む
第五十話:サザンカ
「それ、どういう意味?」「……」 早朝、ジンは、リビングチェアへ深く腰掛けるキリヤナギからまるで説教をされている気分にもなっていた。 昨日の夕方、金曜日の週刊誌メディアから宮殿へと連絡があり、ツバキ家の娘が犯罪に関与し続きを読む
第四十九話:ツバキの花弁
暖かな気候が覆い、花の香りが漂う春。 王立桜花大学院の正門には、数多の桜が咲き誇り、在校する生徒達を迎え、去ってゆく生徒を見送っていた。 その日この大学は、卒業式を迎えていた。 講堂へ集った学生達は名前を読み上げられ続きを読む
第四十八話:ホワイトチョコレートの日々
ホワイトデーの当日。騎士棟では、休憩時間に男性側から女性へチョコレートのお返しをする空気で賑わっていた。 物陰でこっそり渡すものや、他の部署へ渡しにゆくもの、大きな紙袋を持つ女性もおり、ジンは思わずその雰囲気に呑まれそ続きを読む
第四十七話:宝石の少女
これは3年前の出来事だった。 ジギリダス国境沿い、東国(あずまこく)に面した緩衝地帯にて、泥だらけの衣服に身を包む男がいる。彼の胸には銀髪の少女がおり、彼女もまた息を絶え絶えにして体重を預けていた。 男と少女は、もう限続きを読む
第四十六話:ひと時の安息
冬も終わりに差し掛かる季節は、徐々に日差しも暖かくなり、人々はようやく春と訪れに安堵していた。 間も無く春一番が吹くであろうと予告されるオウカ国、首都クランリリーでは、王子がようやく公務の書類提出を終えてホッと息をつく続きを読む
第四十五話:武家カレンデュラ
皆が動き出してゆくクロマツ町で、公爵家のベランダより、街に上がった炎をみたクリストファーは思わず呆然とそれを眺めていた。 月明かりに照らされた煙は高くまで立ち上り、絶望してしまう。 「ククリール……!」「おや、お父様よ続きを読む
第四十四話:クレマチスとの再戦
「少し痩せられましたね。ご息災で何よりです」「どうしてここがわかったの?」「風の噂で……」 相変わらずイライラする言葉遣いだと、ククリールは感想していた。現れたサフランは、引き戸を閉め玄関へと腰を下ろす。 「何処までご続きを読む